iPhoneとエディ・バンヘイレンと世界観。

2020年10月6日にエディ・バンヘイレンというロックギタリストが65歳でなくなりました。ロックをお聴きになる方ならご存じだと思いますが、今は一般的になっている「タッピング」という奏法で衝撃的なデビューをし、その後の活躍により広く普及させた人です。1978年にデビューしましたが、その時の斬新さと格好良さはロックギターという音楽が生まれた1960年代以来の革命と言っても過言ではないほどの衝撃がありました。全世界の音楽業界の人、ロックファンの目からウロコがはがれました。
タッピングというのは、本来弦をはじく役目の右手も弦を押さえるフレットの方に行って左手とともに弦を押さえたりはじいたりすることで、通常の奏法では得られないサウンドを奏でることができる奏法です。彼以来、これを使う奏者が爆発的に増え、今では当たり前の奏法になりました。

1960年代に生まれたロックギターの奏法が、1970年代に盛り上がっていろいろな奏法が出尽くし、沈滞ムードになって、ロックではない音楽が流行り始めた頃に、突如現れて、ロックギターというものに新しい世界を拓きました。

これ、実はその存在がまさにiPhoneとそっくりなんです。iPhoneも消費成熟時代と言われ、もう欲しいものなどないのだと、プロダクトアウトからマーケットインが商品作りの主流になっていたところに、見たこともない商品として登場し、世界を席巻したのはご存じの通りです。

iPhoneはスマートフォンというカテゴリーの商品です。スマートフォンと呼ばれる商品はそれまでもあったのです。ノキアなどが作っていました。しかも、iPhoneには、既存の技術を組み合わせただけなのです。そう言う面では新しい技術はありません。当時、日本の技術者も言っていました「iPhoneには大した技術はない」と。
しかし、iPhoneは今までのスマートフォンやその他のデバイスとはまったく違いました。何が違うのかと言えば世界観です。スマホという同じカテゴリーの商品なのに、世界観がまったく違います。新しい世界を拓いたのです。iPhone以降、iPhoneスタイルの商品が山のように出てきました。いまや、スマートフォンと言えばiPhoneスタイルです。

エディ・バンヘイレンもそうなのです。実は、「タッピング」という奏法自体はロックギターが生まれるずっと前の1950年代からあったのです。しかし、だれもそれを大々的に取り入れることをしなかった。うまく昇華できなかったのでしょうね。小手先の奏法のひとつとして、ほとんどというかまったくと言って良いほど使う人はいなかったのです。

エディ・バンヘイレンは、それとは違う発想で思いついたそうですが、彼は、その奏法を小手先で使うのではなく、ハーモニー感やテンポ感なども含めてひとつのサウンドスタイルとして確立しました。ある新しい世界感があるのです。その後タッピングを使う奏者は山のようにいますが、未だに、彼よりカッコよく使える人がいないのです。

iPhoneもエディも、今まであったものを再構築し、クオリティを高めることで、新しい世界観をつくりあげたのです。そこがとても重要なのです。逆に言えば、世界観を持てるかどうか、そこが勝負だとも言えます。そういう意味ではiPhoneはアートであると言えます。しかし、これからはこの世界観というものがとても重要です。

GAFAに象徴される、いま世界をリードする企業には、独特の世界観があります。世界観というのは、価値観とは少し違います。もっと奥行きとある種の厳格さがあります。その背景には明確で強靱な美意識や思想があります。アップルの創業者故スティーブジョブズの美意識の厳格さは有名です。

エディもただ奏法を使ってみたというのではなく、それから生み出されるサウンドによって今までなかった音の世界を作ったのです。誰も聞いたことがない音でした。最初は、どうやって弾いてるの?と、不思議になり、奏法を知ると目からウロコがはがれました。しかし、その奏法を使っていない曲でも同じような世界観を感じるのです。

日本の企業を見てもZOZOなどには、独特の世界があると思います。WEBサイトのつくりが独特で、それがZOZOでの買い物のしやすさや楽しさにつながっています。その背景には、「6時間勤務」や「嫌なことはしなくて良い」とか、創業者の今までにはなかった美意識があります。
岐阜の未来工業も有名ですね。故山田社長は、働き方改革が言われるずっと昔、創業時から「ほうれんそう」は不要、残業なし、たくさんの休日、一律の給料などを実施していました。

これらを価値観というと、大ざっぱなような気がします。そこには、ただ価値の方向性があるだけでなく、ある種の最低限守らなければいけないものの規準があります。それは「美意識」ではないでしょうか。実は、そこが大事なのだと思います。

例えば、iPhoneに似たようなスマホを作っても何か違う。同じような価値観に見えて、背景にある美意識が違うのです。それは例えば、アップルストアのドアノブを決めるのに300近くもドアを作ってみて決めたというような人が見極めるのと、そうでない人では神経の行き届く細かさが違います。それは一般には目で見ても分からないのですが、感じることができうるのです。しかも無意識で。
そのため、iPhoneは、予約をしているのに徹夜で並ぶような人や「信者」と呼ばれるような人まで生まれる人気になります。それらの人達は、芸術家でも何でもない一般の消費者です。技術的に目新しいものがないにも関わらずです。

特にこれからの時代は、この美意識による世界観をどう創ることができるのかということが重要になっています。少なくともこの「美意識」がなければ世界観を創ることはできません。

iPhoneとエディ・バンヘイレンは、まったく別世界の話ですが、従来あったにも関わらず、斬新なアイデアと研ぎ澄まされた美意識で世界観を構築し、それぞれの分野で革命を起こした歴史に名を刻む存在にまで高めた好例といえます。

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